あぶすとらくと
これまで、SONY INZONE H9、astro A30 wirelessとメインで使えるヘッドセットを探して彷徨ってきた私。
しかし、遂に最終候補になり得るかと思っていたastro A50 Xが約6万円の値付けとなり、私は意味不明なドル円相場の前に崩れ落ちた……。
ということがあってなんだかムカついたので、今回はSteelseries Arctis Nova Pro Wireless(以下Nova Pro)を買いました。
お値段だけ見ればNova Proの方が安いですが、こちらは2022年9月に発売されたヘッドセットなので、モデルライフの長さで言うとそこまでお得な訳ではない気もします。
とはいえ、定価5万円、今の円相場であればA50 Xにも匹敵するであろうSteelseriesのハイエンドヘッドセットには否応なく期待してしまいますが…。
なお、見どころがあるヘッドセットすぎて結構な分量になってしまったので、目次を付けておきます。
- あぶすとらくと
- ファーストインプレッション: 一目で分かる、高級なヤツ
- ガジェット的ワクワクに満ちたハードウェア
- シンプルかつ高機能なソフトウェア(最強)
- 使用感: 痒いところに手が届き続ける
- 非の打ち所のない、完璧で楽しいヘッドセット
ファーストインプレッション: 一目で分かる、高級なヤツ
箱はデカくてかっこいい感じです。1年半前発売のヘッドセットですが、なぜかFirst editionのポストカードが入っていました。国内在庫が捌けてないんでしょうか…?
中身はこんな感じで、本体に加えハブ的な機能を持つワイヤレスベースステーション、ケーブル類、マイクのパフパフ、そして最重要な別添バッテリー(後述)が入っていました。
本体はハウジング部の艶が目立ち、めちゃめちゃカッコいいです。astro A30よりも更に”ゲーミング感”を抑えたデザインになっており、最早通常のリスニング専用ヘッドホンと見分けがつかないレベルになっています。
ヘッドバンドは軽量化を捨て、マットな金属素材。手触りから所有感をビンビンに満たしてくれます。
物の話によれば、デザインはデンマークの高級オーディオメーカー、Bang & Olufsenのデザインを手掛けるヤコブ・ワーグナーさんの手によるものらしいです。
……ぶっちゃけそれ自体の凄さは分かっていませんが、なんとなくこういうブランドストーリー的なものがあると嬉しいので、嬉しいです。B&Oくらいは流石に私も知ってますし。
個人的にサイズ感が受け入れられなかったINZONE H9と比較するとこんな感じ。親子か?というくらいNova Proの小ささが目立ちます。
重量としては336gと、巨大なINZONE H9(330g)よりも重たいのですが、装着感含めかなりコンパクトかつソリッドに感じます。
付属のベースステーションは重量こそスカスカですが、ダイヤルのしっとり感、クリック感(ダイヤルのクリックで操作します)共にそれなりの満足感があります。
このベースステーションにUSB-Cでケーブルを接続し(最大2台)、ベースステーションからヘッドセットへ無線で音声を伝送します。そのため、2.4GHzのドングルは存在しません。また、Bluetooth接続、ベースステーションからアナログ出力も可能と、接続方法はハイエンド製品らしく多様です。
また、このベースステーションは、別売りもされているSteelseriesの小型DAC、Game DACの(たぶん)同等品です。96KHzのハイレゾ伝送にも対応しており、無線接続の安定性向上パーツとしてだけではなく、簡易的なDACとしての機能も備えます。お得!!
ガジェット的ワクワクに満ちたハードウェア
Nova Proには大量のガジェット的見どころがあります。
特殊すぎるバッテリーシステム
通常、大体の無線ヘッドセットは、USB-C等をヘッドセットに挿し、内蔵バッテリーを充電します。そのため、ヘッドセットの使用中にバッテリーが減ってくると一旦外して充電をするか、ケーブルを挿して実質有線として使用する必要があります。
これを解消するためにSteelseriesがどうしたか……バッテリーを自由に取り外せるようにしました。
Nova Proのハウジングは磁力で固定されており、簡単に外すことが出来ます。
向かって右側には充電用のUSB-C、向かって左側には取り外し用のバッテリーが入っています。
このバッテリーはもう一つ余計に付属しており、なんとベースステーションに挿し込んで充電をすることが可能です。
つまりヘッドセット使用中にバッテリーが減ってきたら、ベースステーションから予備バッテリーを取り出し、バッテリーをその場で交換可能なのです。
Infinity Power Systemと(Steelseriesによって)名付けられたこのシステムにより、約8秒(公称値)でバッテリーを満充電することが可能です。満充電に必要な時間が使用者の手先の器用さに依存するという、前代未聞の画期的なシステムになっています。
もちろん普通にUSB-Cでヘッドセットを充電することも可能なのですが、この超力業には感服します。そういえば、電気自動車の充電時間の長さへの解決策として、ガソリンスタンド的な場所でバッテリー自体を交換するソリューションが提案されていましたが……実際に製品化するのはすごいとしか言いようがありません。
なお、ハウジングのカバーは交換用も別売りされており、ヘッドバンドと合わせて、好みにカスタマイズが出来ます。
カッコよすぎるマイク
Nova Proももちろんヘッドセットなので、マイクが付いています。しかも、なんと内蔵型マイク。
内蔵型マイクは、取り外し型のマイク(astro A30等)と比べ、マイクを失くすことがない、必要な時にすぐ使える等利便性には優れていますが、如何せんデザインが野暮ったくなるのが難点です。
ではここでNova Proの内蔵型マイクを見てみましょう。
か、かっけ~~~~!!!
格納時に完全に隠されていたマイクですが、引き出せばしっかり口元に持ってこれます。
取り外し型マイクを100本無くしてきた私としては、この画期的なシステムは大変有り難いです。
マイクミュートの切り替えは本体側面のボタンで行います。マイクON時はボタンが凹み、ミュート中は飛び出すタイプのため、触覚でも確認可能ですし、何より…。
ミュート中は赤いLEDでお知らせしてくれます!
LEDの向きが完全に装着者向けなのも、ユーザビリティを真剣に考えてくれていて嬉しいです。
とはいえ、このマイクにはちょっと難点もありまして、
- マイクミュート/ONの通知音が同じで判別しにくい
- マイクの格納時もミュートLEDが灯っている
点が気になります。
特に2点目については、ずっと余計な電力を消費している気がしてしまいますね。
本当はマイクの格納中は自動的にマイクをミュートにするか、LEDを消灯してくれれば嬉しかったんですが…巻取り式では難しかったのかもしれません。
ベースステーションをフル活用するシステム
前述のInfinity Power Systemに顕著ですが、Nova Proでは付属のベースステーションを限界まで活用しています。まあバッテリーの母艦とするのはちょっとすごすぎですが…。
ベースステーションの全面には有機ELのディスプレイを備え、基本画面として
- ヘッドセットのバッテリー残量
- ベースステーション内バッテリーの充電状況
- 出力元USB/出力状況
- 音量/音量バランス
等を表示してくれます。特に、バッテリー残量を視覚的に常時確認可能なのは良いですね。
また、この画面は後述するソフトウェアでカスタマイズ可能です。私はPCのCPU/GPU温度を表示させています。
ベースステーションの基本機能として2本まで音声入力を接続できるのですが、その切替はベースステーションで行います。
ベースステーションのダイヤルを回転/クリックで操作が可能(画面右下の丸ポチは、”戻る”ボタン用のタッチセンサー)な他、ヘッドセットの音量ホイールでも操作が可能!なんと、ヘッドセットの音量ホイールにもクリック機能があるため、耳元で離れたベースステーションを操作出来るのです。
……正直これがどれくらい嬉しいかは未知数ですが、なんというか離れた場所にある機器を遠隔操作するガジェット的ワクワクは確実にあります。
なにはともあれ、いちいちドングルを挿し直すことなく手元で接続先を切り替えられるのは大変便利。私はUSB-1にPC、USB-2にPS5を接続して使っています。
その他基本的な設定もベースステーションで実施可能ですが、詳細な設定は後述するソフトウェアで行ったほうがいいと思います。めんどいので。
シンプルかつ高機能なソフトウェア(最強)
Nova ProはSteelSeries GG(以下GG)というソフトウェアで設定を行います。私は基本的にLogicool教徒なので、G HUB等に使い慣れているのですが……正直GGの方が100倍使いやすいです。
GGの基本画面はこんな感じ。
Sonar(イコライザー系)、Moments(ゲームのクリップ撮影)、3D AIM Trainer(AIMのトレーニング?)、Engine(ヘッドセット等Steelseries製品の設定ハブ)が内蔵されています。
Sonar、Engine以外は製品には関係ないので、今回はこの2つだけに触れていきます。
Sonar: 異常に高機能なイコライザー
ミキサーの他、ゲーミング、チャット等で個別に設定が可能です。
中身はこんな感じで、イコライザ、3Dオーディオ設定、ボリュームブースター、スマートボリューム(小さい音を底上げ、大きい音を低減して音量を平準化する機能)と言った設定項目があります。
イコライザはもちろん手動でカスタマイズも可能ですが、異常な量のプリセットが用意されているので、ここから選ぶと楽できます。
一点残念なのは、起動しているゲームを検知してプリセットを自動で割り当てるような機能が(恐らく)存在しないこと。
毎回プリセットを使用しようと思うと、ゲームを起動する度手動で膨大なプリセットからいい感じのものを探し、ゲームを終えたら普段遣いに戻す…といった作業が必要になります。
また、この手のソフトウェアでは微妙な仕上がりになりがちな3Dオーディオについても、Sonarのものはかなり実用的な気がします。FPSや一部映画鑑賞ではしっかり立体感を出してくれます。
なお、タブで分かれているゲーミング、チャット、メディア等の設定は、Windowsのサウンド設定で切り替えます。
Sonar使用時はこんな感じで仮想デバイスが追加されているので、「既定のデバイス」をGaming、「既定の通信デバイス」をChatにすることで、Steelseriesの想定通りの形になるはずです。
ちょっとサウンドデバイスがごちゃつくのがアレですが、Windowsに慣れていれば分かりやすくて良いですね。
また、マイクタブにはCLEARCAST AI NOISE CANCELLATIONというノイズ低減機能も存在。
試しに通話してみた限りでは、これがかなり効果的なようです。リップノイズやキーボードの打鍵音等をしっかり遮断してくれます。
Engine: 必要十分な設定アプリ…かと思ったら、無限に遊べる
Nova Proはベースステーションでも設定の変更が可能ですが、ほぼ同じ内容がEngineで操作可能できます。
マウスを用いたGUIで簡単に設定変更が可能なので、確実にこちらの方が楽です。イコライザー機能はSonarに切り出されているため、Engineの設定項目はかなりシンプル。迷ってしまうことはないと思います。
実は、Engineの見どころはここではなく、”アプリ”タブにあります。
ここに格納されているのは、Steelseries製品のカスタマイズツール。Nova Proの場合は、ベースステーション前面の画面をカスタマイズ可能です。
例えばDiscordの通知を表示できるものや…
CPU/GPU使用率・温度を表示できるもの、
Minecraftのプレイ中に好きな情報を表示できるものなど、何でもありです。
しかも、Steelseriesはこの画面を動かすためのSDKを配布しているので、その気になれば自作も出来てしまいます。やらないけども無限に遊べそうです。やらないけども。
使用感: 痒いところに手が届き続ける
ひとまず、PCでのゲーム、Discord通話、Youtube/音楽視聴などにしばらく使ってみました。
装着感
当初キツめかなと思っていましたが、しばらく使っているうちにこなれて来た気がします。側圧はやや強めなので、不安な人は試聴を踏まえた方がいいかもしれません。
音質
音質面に関しては耳に自信がないので割愛しますが、明らかにastro A30より良い音がしているような気がします
また、意外と良かったのがアクティブノイズキャンセリング(以下ANC)。そう、このヘッドセット、ANCもついているんです。
能力としてはそこまで強力ではないのですが、少し離れた換気扇の音を消すくらいの性能はあります。電車の中等で使うようなヘッドセットではないので、結果論的ですが家の中で使うANCとしては必要十分だと思います。
ANCなんて、普通はゲーミングヘッドセットの目玉機能になるようなものですが…Nova Proにはまるでおまけみたいな顔で装備されています。すごい。
マイク性能
Discordでの通話についても、相手からの評判は上々でした。Discordのノイズ低減技術であるKrispをオフにしても余計な音はほとんど入らず、やはりマイクのハードウェア性能とSonarのノイズ低減が優秀なようです。
ヘッドセットでマイク性能もそれなりにある製品は意外なほどに少ないので、これは貴重な選択肢になりそうです。
接続性
今回はUSB-1をPC、USB-2をPS5、BluetoothをiPadに接続して使用。
ドングルの挿し直しを行う必要がない快適さに加え、PS5との充分な互換性能、意外と低遅延なBluetooth接続も好印象でした。
ただ、当然PS5ではSonarが使えないため高度なイコライザや3Dオーディオは使用出来ません。一応Tempest3Dオーディオ(PS5の3Dオーディオ機能)互換らしいですが、まあそこまで効果は感じられませんでした。
とはいえ、PCでSonarを使用している最中は封印されているベースステーション側のイコライザが開放されるため、イコライズは可能です。
ゲーム毎のプリセットこそSonarの数には及びませんが、ある程度メジャーどころのタイトルに対応したプリセットが使用可能。しかも、ベースステーション側のイコライザーも10バンド対応かつ手動調整も可能なので、その気になれば自力で好きなだけ追い込むことが可能です。
PS5専用ヘッドセットという訳ではないことを踏まえれば、これは驚異的な機能性だと思います。
気になる点としては一点だけ、Bluetooth接続は少し不思議な挙動をします。
Bluetooth接続でヘッドセットを使用後ヘッドセットの電源をオフにしても、Bluetooth接続が継続されるのです。
自分でも何を言っているかよく分かりません。
Bluetooth接続中に本体の電源ボタンを長押しすると電源切断音が鳴り、通常の無線の音声は途切れます。しかし、その状態でもBluetooth接続端末との接続は維持され、音も引き続き聴くことが出来ます。
電源オフされてないじゃん。
されてないんです。この状態できちんとヘッドセットの電源をオフにするには、Bluetoothボタンを長押しし、Bluetoothを明示的に切断する必要があります。
無線での接続とBluetooth接続が独立しているためなのか、電源ボタンでヘッドセットの電源を一括で落とせないのは少し違和感を覚えます。
最初はこの仕様に気が付かず、結構なバッテリーを無駄にしました。
バッテリー保ち
バッテリーは満充電されたカートリッジひとつで体感12時間程度保ちます。1.5日くらいはバッテリーを交換せずに使えそうです。
とはいえ、Infinity Power Systemのお陰で8秒で満充電が可能なのでそこまで気にはなりません。毎回ハウジングを外す必要があるのはちょっと面倒くさいですが…。
また、このInfinity Power Systemにはもう一つ大きな利点があります。
充電式のヘッドセットと切っては切り離せない問題として、バッテリーの劣化による寿命があります。5万円出して2年後にはバッテリーがヘタっているようでは悲しいですよね。
しかし、Infinity Power Systemではバッテリーが手頃な価格で別売りされています。
そもそもが日常的にバッテリーを交換する前提のソリューションなので、新品バッテリーさえ手に入れば、バッテリー劣化時にも超簡単に新品と交換出来ます。
高いヘッドセットを(Steelseriesがバッテリーの生産を続けてくれる限りは)長く使えるのは、財布にも環境にも大変サステナブルでよろしいかと存じます。
非の打ち所のない、完璧で楽しいヘッドセット
思えば、G733→INZONE H9→astro A30と使えるヘッドセットを色々検討してきましたが、常にあちらが立てばこちらが立たず……と悩んできました。最終的に正解のソリューションは高くて良いものを買うだったんですね。
Arctis Nova Pro Wirelessは確かに高額で、しかも1年半前のモデルですが、モデルチェンジがされない理由がよく分かる出来の良さです。何よりすべての機能がユーザビリティを最重視して設計されており、使っていてものすごく楽しいです。
シンプルなヘッドセットを求めている方には少々オーバースペックかもしれませんが、高機能な製品を探している方にとっては、まさに理想的な選択肢となる可能性もあります。
いい感じの音質
いい感じのマイク
革新的かつ便利なハードウェア
使いやすく高機能なソフトウェア
価格は高い(が、妥当)
ベースステーション前提のシステムなので、既にUSBアンプ等を導入している人は少しもったいないかも